バロロロロロ〜。

かわいい色目とは対照的な
スクーターの重低音は

まさにテツオさん
ソノモノで。


「太極拳!
一万円出すからッ!」

ああッ
勘弁してくださいッ!


「トーコ
あのお姉さんは、いったい
何の話をしているんだ?」

「……」

「トーコちゃんてばああ」

私達の後ろを
ピンクのスクーターが
ピッタリとついてくる。


「もおおおおお」

この寒いのに
半袖のTシャツ1枚でも
平気なんてッ

硬くて太いシンスケの腕は
本当に掴みにくいッ。


静かなオフィス街

どこのビルも
まだシャッターが
閉まっていて

逃げ隠れ出来るような
トコロは…!

「あッ」

歩道橋!!!!


「シンスケッ、こっち!」

「トーコッ!?」


私はシンスケの背中を押して

歩道橋の階段を
2段飛ばしで駆け上がる。


日頃
部活で訓練をしている
私達にとって

たいしたコトのない
階段でも

日頃、ハイヒールばかり
履いている
テツオさんにとっては

難所に違いないだろう
ハズだった。


ハズだったのにッ!!!!


「観念しなさいッ」

テツオさんが
おおきな道路を
スクーターで横断して

「そんなの
アリなんですかッ」

反対側の歩道橋の下で
悠然と待ち構えている。


「…トーコ、お前
何であのお姉さんから
逃げ回ってるんだ?」


ぎくッ。