シンスケはともかく
テツオさんまでもが
私が赤点の常連だって
知っているなんてッ
セイのおしゃべりッ。
「なるほど。
確かにマヌケそうな
顔をしているな」
ってッ。
初対面の人間に
この言われようッ!
「お嬢ちゃん。
知らないヒトに
お菓子を貰っても
ついていっちゃダメだよ」
自警団のオトコが
私のアゴを
閉じた扇で持ち上げると
みんなが扇を開いて
一斉に私に向かって
扇ぎ立てた。
「ふふふふ」
「ははははは」
風に乗せて
あちこちから
失笑が漏れ聴こえてきて
「……」
なんか物凄い屈辱感ッ。
みんながみんな
フードを目深に被っていて
おおきなゴーグルを
つけているから
髪型も顔の特徴も
わからない。
どのヒトも
同じに見えるから
なんだか
社会全体から
笑われているような気がして
余計に胸クソが悪かった。
扇から漂ってくる
香りなのか
嗅ぎ覚えのあるお香の香り。
「けほ、こほほッ」
香りをモロに吸い込んで
思わず咳き込んでしまった。
「おもしろい
オモチャだねえ」
私のオデコをピシャリ、と
扇でひと叩き!
「…痛ッ」
再び目を開けた時には
「あれ?」
もう誰もいなくなっていて。
「…今の、夢?」
…なワケないよね。
シンスケの手の甲にも
私のオデコにも
くっきりと
扇で叩かれた痕が
残っている。
「何だ、今のは…」
シンスケの顔が
安堵に緩んだ。
「ケッコー歴史のある
ガーディアンよ。
ウワサには
訊いていたけれど
ホントに実在したんだ…」
百千鳥。
風に乗って現れて
風と共に去っていく。
「正義の味方には
とてもじゃないけど
見えなかったけど」
シンスケが
自分の赤く腫れていた
手の甲を見つめた。
「あら、ホント。
ちょっと
見せて御覧なさいな」
テツオさんが
スクーターから降りて
シンスケの手を
曲げたり伸ばしたりして
触診した。
「筋とかは
傷めていないようね」
テツオさんが
簡単に太鼓判を押すけれど
「……」
なんだかどこか
ウサンクサイ。
「ホントに大丈夫ですか?」
「誰に
モノを言ってるのかしらッ!
私は女医よ!」
「…歯医者さんでは?」
「美容歯科と口腔外科の
歯科医師免許の他にも
医師免許も持ってる
ダブルライセンサーよ!」
どお?、凄いでしょ、って
言わんばかりに
テツオさんが胸を張る。