レクイエム#005
このオフィス街でも
ひときわ目立つ
ランドマーク的存在の
ビルの向こう側。
公園とは名ばかりの
中庭のような
吹き抜けのエントランス。
申し訳程度の緑に
板張りのデッキ。
アイアンと木の
おしゃれなベンチが
たくさんあって
昼食時にはここで
たくさんのOLさん達が
お弁当を食べている光景が
目に浮かんでくる。
だけど
「こんなトコロで
こんなに大勢のヒトが
集まっていたなんて」
「しッ。トーコちゃん。
声がおおきいッ!」
「……」
今、さっきまで
その静かなオフィス街で
爆音を轟かされていたのと
同じ人物から
発せられているコトバだとは
思えませんッ。
民族楽器。
竹笛の音が
低く静かに流れる中
大勢の人間が
気配を消すようにして
静かに同じ動きをしていた。
「…これが太極拳?」
テレビなんかで見るのとは
イメージが何だか違う。
このオフィス街で
働いているヒト達
なのだろうか。
スーツにスニーカーで
参加しているヒトも
結構、多かった。
この辺りは
海外と取引をしている商社が
いっぱいあるから
ある意味
眠らない街なのかもしれない。
「…お年寄りばっか、って
聞いていたのですがッ」
もうすでに
話がえらく違うんですけれど
どういうコト
なんでしょうかッ。
「商社マンの集う場所なんて
言ったら
トーコちゃん
コンプレックスに感じて
臆するかと思ったのッ」
それはどういう意味
なんでしょうかッ。
「ま、いいじゃない。
ほら!」
テツオさんが
私のカラダを強引に
集団の中に押し出すと
ざざッ!
「!!」
まるで
私が最初からその場所を
陣取っていたかのように
みんなが一斉に
お互いの間隔を調整する。
「トーコちゃん!」
テツオさんが
集団の輪の外から
私に動け、と
ジェスチャーして
私を急かしていた。
「…仕方ないッ」