たくさんの
移動販売車が立ち並ぶ中
その車には
あれよ、あれよと言う間に
長蛇の列が出来ていて
人気店には
違いないようだった。
ワゴンの中に見える
黒いコックコートを着た
華奢な男性。
顔がちいさいからか
かなりの小柄に見える。
切れ長のおおきな目。
女性のような
繊細なラインの輪郭に
無粋なヒゲが
なんとも色っぽい。
この長蛇の列の
お客さん達の真の目的を
思わず疑いたくなる程の
まさに
アジアンビューティー
だった。
だけど
そのまっ黒な装束のせい
だろうか。
その雰囲気はどこか暗く
「お客さんに
笑顔を作ってはいるけれど
かなり無理してるって
カンジ…」
「もおおッ
そこがいいんじゃないッ!
ああ言うオトコを
哀愁があるって言うのよッ」
テツオさんが
私のジャージを掴んで
桃色の声で自己主張する。
「……」
…テツオさんって
こういう男性も
お好きだったのですね。
「トーコちゃんは
アタシの妹って設定で
話を合わせてねッ」
「はいッ!?」
テツオさんは私のジャージを
引っ張って
アジアンビューティーの待つ
ワゴン車の
長蛇の列の最後尾に
並ばせた。
「…今から並び始めても
遅いんじゃないですか?」