そんな脅しを掛けてまで
客を逃がしたくは
ないのだろうかッ。
「さっき太極拳に
参加していたヒト達も
たくさんいたしッ!」
「ああ。
あの太極拳の参加者は
特別だから…」
「特別ッ!?」
私の問い掛けが
聞き取れなかったのか
私の剣幕に
話を逸らせたのか
「この辺
オフィスビルが多いからね。
どこかに連れ込まれたら
もうオシマイですよ」
運転手さんは
話をはぐらかしッ。
「ここだけの話。
表沙汰には
ならなかったけれど、って
事件
結構、多いんですよ」
信号待ちをしながら
運転手さんが
さらに私に釘を刺す。
確かに
車内から見える街の光景は
広々と視界が利くように
見えて
植え込みは多いし
人通りは少なくて。
「実際、僕自身も何年か前
道路に飛び出してきた
アタマから
ブルーのペンキを被った
ハダカのオンナノコを
保護したコトとか
ありますから」
ってッ。
もしもしもしッ。
「さっきだってね。
落ち武者みたいに
アタマを刈られた
オトコノコが
フラフラ歩いていたのを
見掛けたし」
「…さっき、ってッ」
「他のお客さんを
乗せていなければ
声を掛けたんだけど
怪我もしていなかった
ようだったし。
それに…」
「それにッ!?」
「そのオトコノコの傍には
ワンオーがついていたし」
「ワンオーって…」
扇を持って
ゴーグルつけて
「胸にカーキの羽根をつけた
あの自警団?」