何を思いつめているのかと
思いきや
アナタの思考の行きつく先は
結局、セイ、なのですね。
「……」
私が百のコトバを重ねるより
セイの“似合ってる”の
ひと言の方が
どれだけ効果的か
わかってはいる。
わかってはいるんだけど
「…セイはそ〜ゆ〜アタマ
嫌いじゃないと思うよッ」
そんなコトを
セイに頼める準備も覚悟も
余裕ない自分が、情けない。
「…適当なコト言うなよな」
「そんなコトないよッ。
ちいさいときなんかッ
なんとかボールって
アニメの登場人物に
そっくりだ、って
大阪のおじいちゃんの
ツルッツルのアタマに
チュッとか
してたんだからッ」
「マジで…!?」
シンスケの期待に満ちた声が
車内に轟き
「……」
「……」
タクシーの運転手さんと
鏡越しに
思わず目が合ったッ。
「そうか。
ツルツルアタマに
チュッて、してたのか」
「……」
…“罰ゲームで”という
ニュアンスと
おじいちゃんの
“写真”にってコトバが
抜けてしまってはいますけど
ウソはついては
いませんからッ。
「そうか、チュッ、か」
シンスケは
自分の光るアタマを
果てしない妄想の中
目を閉じて撫ではじめ
「……」
私は自分の発言の
罪深さを知る…。
でも
今なら訊けるかな。
「シンスケ。あの、さ。
私と別れたあの後…」
私が事件に
触れようとした途端
シンスケの顔から
笑顔が消えて
「あッ、別にッ!
思い出したくもないなら
いいんだけどッ」
あはははは、って
笑ゴマした私の声が
車内に空しく響いていた。
「…お前
…誰にも言わない?」
えッ。
「…やっぱ言うよな」