「無くなっていたのは
自分の頭頂部の髪の毛と
ケータイ電話。
何故か財布は無事だった」
「…そんなコトまで」
「さっき乗せたお客さんから
聴いたんだけどね。
被害者はみんな同じ
パターンだ、って
もっぱらの評判なんだって」
「……」
そんなウワサが立つくらい
たくさんの被害者が
出ているなんて。
「被害者がみんなして
証拠の写真も撮らずに
自分で髪をすぐに
スキンヘッドにしちゃうから
警察には
被害届も出せない、って
言うからねえ。
ほら、僕が保護した
青いペンキのオンナノコも
僕は警察へ行くのを
勧めたんだけど
自分の落ち度だから、って
一点張りで
結局、そのまま
自宅へ送ったし…」
運転手さんは
そう言うけれど
「髪の証拠はなくなっても
ケータイを盗られたんだから
シンスケは
それで被害届を出せば?
ね?」
ここで泣き寝入りしていては
また次の被害者が…。
「それが、そのケータイ。
すぐに
戻ってくるっていうから
気味が悪いんですよね」
「え」
「ケータイが
戻ってくる、って…」
もしかして
それはオカルトですかッ。
「これも、さっき乗せた
お客さんからの
受け売りなんで
詳しくは
知らないんですけれどね〜。
あ、お客さん
着きましたよ」
おおきくなった不安と
謎を残したまま
私達を降ろした
鳥のマークのタクシーは
走り去った…。