ご丁寧に
「ウチのトーコが
毎朝、お世話になってるね」
その暗すぎる背中に
声を掛けながら
パパが近寄っていくと
「…おはようございます」
シンスケが
チカラなく振り返った。
「あれ?、シンスケくん
その髪型…」
パパがちょんちょんと
自分のモミアゲを指さすと
「……」
シンスケがニット帽を
目深に被り直していて。
「あのねッ、パパッ」
「いいなあ。若い子は。
髪型もいろいろ
チャレンジ出来て」
なんてッ
パパってばッ
余計なコトをおおおおおッ。
「パパッ!
次の特急に乗り損ねたら
電車、混むよッ」
ほらほら、と
私はパパの背中を
押し出すようにして
亡霊のようなシンスケを
その場に残し
私は駅へと急いだ。
のにッ!
後発の電車に乗ってきた
シンスケと
乗り換えの駅で
またバッタリと
再び遭遇してしまうとはッ。
ホームに吹く北風の寒さに
私はポッケに手を突っ込み
シンスケの姿に
気づかないフリをした。
「……」
「……」
無言のまま
私の真後ろに並んでいる
シンスケの存在感の
なんと息苦しいコトかッ。
そりゃあ。
同じ学校へ
向かっているのだから
駅の出口に近い車両に
乗ろうとするのは
当然なんだけれど。
「……」
「……」
今更ッ
私が列を外れて
他の列に並び直すのも
すっごい不自然で
イヤミだし…。