先を行くナンノちゃんが
後ろを何度も振り返っては
「ついてこないでよッ!」
こっちを睨みながら
大声で叫んでて。
「……」
「そんな捨て犬のような
哀れな顔で同情を誘っても
私には通用しないからッ」
ナンノの右手には
しっかりと
シンスケのケータイが
握られていた。
「……」
ケータイひとつで
ここまで熱くなれる
ナンノちゃんが
シンスケの
あのアタマを見たら
どうなってしまうのか。
ウソや誤魔化しが
下手なシンスケ。
ああ!
想像しただけで
恐いですッ。
朝、駅で遇ったとき
「逃げ出したりせずに
強引にでもシンスケと
口裏を合わせておく
べきだったよね…」
後悔しても
とき、すでに遅くッ
遥か向こうに
ナンノちゃんが
シンスケの後ろ姿を見つけ
「シンスケくんッ
おはよう!」
シンスケに駆け寄ると
「ニット帽なんて被って
登校したら
生活指導の先生に
取り上げられるよ!」
「あッ」
勢いよくシンスケの帽子を
はぎ取ったッ!!!
「……」
「……」
「……」
「…どうしたの
そのアタマ…?」
あのナンノちゃんが、一瞬
コトバを失ってしまったのも
無理はナイ。
坊主だとばかり
思い込んでいた帽子の下
そのアタマには
包帯が巻かれていて。
「…ごっくんッ」
この私でさえ
その姿に
動揺を隠せなかった。