レクイエム#016


「こんなトコロで
拉致、誘拐なんて
あり得ないからッ!」

自宅マンションの真正面ッ。

こんな怪しすぎる車に
連れ込まれるなんて

セイに一生笑われるッ。


私の腕を掴んでいる
犯人の手を

「いだだだだッ」

私はチカラいっぱい
握り込んだ。


「ちょい、お前ッッ!」

ギブギブ、と
私の肩を叩くアナタは

「シンスケッ!?」

ではないですかッ!


「ったく。
乱暴なんだからな」


私の手から解放されて

L字型に
配置されている座席に

運転席を背にして
座っていたシンスケが

車の窓ガラスに
カラダを預ける。


「もおおおおおッ!
驚かせないでよッ」


「何だよ!
トーコこそ

マンションの前にいるって
伝えてたのに

お前ってば
当たり前のように
通りすぎようとしてさ!」


黒いニット帽を
何度も深く被り直しながら

シンスケが私に訴えた。


「だってッ!

まさかシンスケが
こんな怪しすぎる車に
乗ってるなんて!」

思いもしなかったから。


「けっこうハッキリ
モノを言う子だねえ」

「え?」


シンスケのナナメ前

声がする方に目を向けると

車の奥に
オトコのヒトが
胡坐をかいて座っている。