「ほら、トーコ」

シンスケが
正面の席にカラダをズラして

自分が座っていた
私にドア側の席を
譲ろうとする。


「どうぞ」

床に胡坐をかいて
座っている
ワンオーのおに〜さんが

私を見上げるようにして

持っていたボールペンで
座席を指していた。


…そう言われましても。


見知らぬ車に乗るのを
戸惑っていると

「ちょっと
この車、何なのよ!」

邪魔よ、邪魔、って

通りすがりのヒトが
私の背中に声を掛けてくる。


「あら?
もしかしてトーコちゃん?」


「……」

この声は
ご近所のタドコロさんッ!


…ヤバイッ。

こんなトコを見られたら

何をウワサされるか
わからないッ。


「ねえ、ねえ。

トーコちゃん
なんでしょう?」


「……」

私は背中を丸めながら

ちいさくなって
シートに蹲っていた。


「ねえ、トーコちゃ…」

バン!

私の後ろで
車のドアが閉まる音がして。


「なあ。

トーコじゃない、って
誤魔化しておいた方が
いいのか?」


シンスケが私に
話し掛けてきたけれどッ

「……」

私が結論を出す前に

車は
タドコロさんをその場に残し
走り去るッ。