「その
セイちゃん、だっけ?

その子がどうして
ワンオーの車に
乗っていたのかを
知りたいだけでしょ?」

運転席のおね〜さんが
ハンドルを右に切りながら

話し掛けてくる。


「笑いながら
手を振られたくらいで

気を取られて
自転車の運転を
誤るなんて

よっぽど
かわいいオンナノコ
だったのね」

「……」

この恐ろしいツッコミに

シンスケの周りの空気が
重く重く固まっていた。


「あのッ!
セイは我が家の…!」

長男坊、って
言おうとしたその瞬間

私の上着のポケットに
入っていたケータイが

古い車内になり響いて。


「…出てくれても
構わないよ」

ワンオーのおに〜さんが

どうしてマナーモードに
してないんだ、と

私のコトを
非常識だと言わんばかりに
ため息をつきながら

手の中でボールペンを
クルクル回しているッ。


「……」

その態度にカチンときて

思わず
相手を確かめずに
電話に出てしまったのは

確かに私の失策だった。

けど。


『トーコ!
お前ッ
今、どこにいるんだッ!?』


…セイが電話の向こうで
激高しているッ。


『お前が
変な車で連れ去られた、と

母さんが血相変えて
俺に電話してきたぞ!』