おね〜さんの視線の先
広場に黒山のヒトだかり
その周りをぐるりと
囲むようにして
車間距離を取るのを
忘れた車達で
溢れ返っていた。
まばゆいスポットライト。
「きゃあああああああ」
拍手と黄色い声に
迎えられるようにして
数人の影が現れる。
「あんッ!、ウソッ!
逆光になってて
見えないじゃないッ
せっかく
この場に居合わせたって
言うのに!」
おね〜さんが
車のクラクションを
鳴らして
前の車に
進め、と煽っていて。
「…何の騒ぎですか」
「知らないの?
今、この街で話題の
太極拳よッ。
予告もなく
ゲリラ的に現れては
ほんの数分
演武を披露したら
さっと消えちゃうの!」
ワンオーのおね〜さんが
窓を開け
何とかその演武を見ようと
頑張っている。
「演武って
朝の太極拳と
また違うんですか?」
「もうッ、うるさいわねッ
質問は後にして!」
「……」
おね〜さんは
職務も我をも忘れていた…。
でも。
これって
すんごいチャンスではッ。
開けっ放しのドアから
そっと車を降りようとした
私の腕を
「おい…」
シンスケが掴んでくるッ!
「違うからッ!
私はシンスケを見捨てて
ひとりで逃げようとなんて
してないからッ」
「おい。見ろよ、あれ」
「え」