「しッ!」

その単語を
小声で口にしようとした私を

シンスケの厳しい視線が
けん制する。


“わかってるからッ”

私は口パクで
シンスケに訴えて

「こっちの
おまんじゅう風のも
美味しそう」

などと

バードさんに
試食中をアピールしながら

自分のポケットの中に
入れられたモノが
ケータイ電話であるコトを

私は
その手の感触で確認した。


「……」

窓ガラスに映っていた
こちらを見つめる
シンスケの目が

“アイツはウソつきだ”と
語っているッ。


だけど。


車のシートに
ケータイがあったから、って
本人のモノとは限らない。


私たちみたいな同乗者が
落としていったのかも
しれないし。

「…案外
彼女の忘れ物だったりして」


自分のポケットに
シンスケのケータイが
入っていただけで

ワンオーに
アタマから犯人だと
決めつけられてしまった
屈辱の体験が

私を慎重にしていた。