電源を切ろうとした
ケータイの画面に
表示されている
【シンスケ】の文字に

「もしもしッ、シンスケ!?
今、どこにいるの!?」

私は慌てて電話に出る。


『…どうして
そこにセイがいるんだ?』

「え」


電話の向こう

今にも泣き出しそうな
情けないシンスケの声。


振り向くと

遠くワンオーの故障車の
ハーフスモークの
窓ガラスから

シンスケがケータイを手に
こちらを覗き見ていた。


「……」

姿が見えないと思ったら

セイの視覚に入らないよう

ワンオーの故障車の中
潜んでいたとはッ。

ははははは…。


『お前、セイに俺の髪のコト
話したりしてないよな?』

「え?」

『まさかッ!
しゃべっちゃったのか!?』

「……」


ガラスが飛び散るこの惨状を
目の当たりにしても

アナタの心配は“セイ”
その一点集中なのですね。


『何だよッ!
何で黙ってるんだよッ』

って

言われましてもッ。


ふたつの案件を
同時に処理しろなんて

私の脳機能の限界は
アナタも
よおおっくご存じのハズッ。


「あの、ね。シンスケ…」

ワンオーの故障車に
近づいていく私の顔を見て

『…トーコ、お前、よくも
そんなふざけた顔で
俺の前に現れるよな?』

シンスケらしからぬ暴言に
私は我が耳を疑った。


「あは。シンスケ…?」