レクイエム#037
セイが
誰とでも抱きあえるような
ヤツだってコトは
嫌という程
知っていたつもりだった。
ねだられれば気軽に応じる。
その行為に
愛や意味はないんだって
わかってはいる。
わかってはいるのに…。
この胸の中の鈍い重み。
「ワンッ」
この息苦しさ…。
「ワンッ!」
このニオイ…。
「ワンワンワンワン
ワオオオオオ、オンッ!」
「……」
ヒトの気も知らず
私の背中の上で
楽しそうに
シッポをふりふり
吠えまくってる
この獣…ッ。
「ちょっと、そろそろ
どいて貰えるかなッ」
私が犬を押し退けようと
格闘している横で
「まいったよなあ。もう」
運転席に腰掛けていた
テルさんが
足元に落ちていた
石焼ビビンバの器のような
硬質のアタッシュケースを
拾い上げ
はあ、っと
深い溜息をついていた。
「あのッ、それッ
テルさんの持ち物
だったんですかッ」
「ああ、これね。
パソコン」
え。
「ええええええええッ」