そして

そんなキリエさんに
寄り添いながら

セイの腕がしっかり
彼女のカラダを支えていて。


朝の光景。

「…だから
タクシーに
乗せられたときも…」

「ワンワンワン!」


「このバカ犬が
少しは役立つかと
思ったのに」

「…盲導犬、なんですか?」


「まさか!
こんなバカ犬ッ!」

「ワンワンワワワン!」


「この調子で
機嫌がいいと吠え続けるワ。

散歩に連れて行けば
キリエさんを放って
駆け出して
姿をくらませるワ。

今朝だって
セイとふたりで
もう大捜査だよ!」


「え」

「このバカ犬さあ。
生ゴミ収集車
追い掛けててさあ」

「ワンッ!」

「クソッ。
ネットで見つけて
お前の購入を薦めた
俺の立場を少しは
考えろ、っつ〜の!」

何が“飼い主を失った
健気な犬”だ!、と

テルさんが
おバカ犬のアゴを掴んで
激しく上下にシェイクした。


「…あはッ」

あはははは。

「そうだったんだ」

「笑い事じゃない!」

「…はい」

そんな事情だなんて
知らなかったモノだから

キリエさんに
嫉妬なんか感じたりして。

私ったら…。