レクイエム#038


満員電車の中で
鳴り響いていた
このメロディー。

『今日もトイレを
磨きます〜♪

お掃除大好き〜
ママッ、ママ、ママ♪』


「あのとき…」

その電話に出たのは

私とナンノの傍にいた
非常識な
鼻かみビジネスマンだった。


『何よりも
輝いてます〜♪

ピッピカリンリン♪』


“電車を降りるときに
あのオッサンの足ッ

思いっきり
踏んでやったのにッ”


着信音とともに蘇ってくる
ナンノのセリフ。


“スーツなんて
着てるクセに
軍靴なんて履いててさッ”


…愛犬家のナンノの傍で
鼻を噛み始めた
ビジネスマンの姿が

アタマの中で
ワンオーのおに〜さんの
シルエットに重なって

「…ごっくんこッ」

私は思わず息を呑んだ。


でもでもでもッ!

背格好は
確かに似ていたような
気はするけれどッ

世の中には
アレルギー持ちのヒトも
風邪気味のヒトも
たッくさんいるしッ!

軍靴を履く
ビジネスマンだって
意外と珍しくないのかも
しれないッ!

「落ち着けッ!
落ち着け、自分ッ!」

私は自分の頬を叩いて
冷静を保とうと試みる。