レクイエム#039
背後から片手で
私の両肩を抱え込むように
そのヒトは
私の背中を引き寄せ
車のドアをそっと閉めた。
甘い香り。
「トーコちゃん。
悪いけどもう少し
つき合って貰うね」
「…バード、さん?」
戻ってきたんだ。
免許証や車を取り返しに?
それとも
犯罪の証拠が入っている
ケータイ電話の回収に?
「……」
バードさんには
問い質したいコトも
伝えたいコトも
いっぱいあったけど
私の首に
宛がわれているモノの
尖りが
私を無口にさせている。
「あの、さ。
そんなモノなんかでさ。
本気で…」
緊張のあまり、なのか
テルさんの薄ら笑いに
私はさらに
緊張を強いられた。
“そんなモノ”って
どんなモノなんですかッ。
汗がッ。
汗が止まりませんッ。
「…こんなモノでも
目くらいは
つぶせるからね」
ボールペンの先が
私の視界に
飛び込んでくるッッ!
ひええええええええ。
本気じゃないですよねッ。
単なるパフォーマンス
ですよねッッッ。
たかがボールペン。
されどボールペン。
どんなモノでも
そこに殺意があれば
凶器になるんだ、って
言ってたのは
セイだった。