「…何でもないから
そのまま走らせて!」
バードさんが
私の上に覆い被さったまま
運転手のテルさんに
指示を出した。
テルさんってばッ
いくらバードさんに
凄まれたから、って
焦る必要なんて
どこにも
ありませんでしたからッ。
「トーコちゃんは?」
「……」
「医者に診せなくて
いいのか?」
「……」
私が怪我をしたと
テルさんは思い込んでいる
みたいだけど。
車が急発進したとき
とっさにバードさんは
ボールペンの先を
翻していたから
「…私なら大丈…」
怪我なんてしてない、って
続けようとしたのに。
「ウィンカー出さずに
その先
左のグリーンランプで
左折して!」
私のコトバを
途中で遮るように
バードさんの
次の指示が飛び。
「…母親だけじゃなく
他人にも容赦ないんだな」
テルさんの挑発的な
意味深なセリフにも
「ほら、油断してると
後ろの車に
巻き込まれるよ!」
バードさんは動じもしない。
…まさか
キリエさんの失明の
原因って…。