レクイエム#042
暗闇の中
青白い外灯に
照らされるようにして
そのマンションは
姿を現した。
鬱蒼と茂る常緑樹に囲まれた
打ちっ放しの
コンクリート塀。
ところどころ白くなった
雨水の跡のダメージ感が
いい味を出している。
緑の蔦に隠された
入り口から
ゆるやかなスロープが
地下の駐車場へと
続いていて
「え、勝手に
入れちゃうんですかッ」
高級住宅街とは思えぬ
その無防備さに
驚かされた。
「ここいらでも
一等古いマンション
みたいだからなあ」
テルさんは迷いもなく
マンションの中に
車を入れているけれど。
「……」
クボ先輩のお義兄さんが
投身自殺をしたマンション。
自殺の名所なんて
呼ばれてるにもかかわらず
こんな風に誰カレかまわず
侵入出来てしまっても
いいモノなのだろうか。
「バブル前に建てられた
こういう賃貸禁止の
高級マンションってさ
入居の為の審査も
今では考えられないような
偏見だらけの条件が
課せられてたらしいからね」
テルさんと
ミラー越しに目が合った。