「トラブルを抱えていそうな
怪しい成金や

芸能人みたいな
派手なイメージのある
住人がいないから

住んでいる人間の顔ぶれも
昔からほとんど変わらない」


…確かに。

駐車場に停まっているのは

お金持ちのイメージからは
程遠い

ウチのマンションでも
よく見掛ける大衆車
ばっかりで。


「昔からのいい家柄ってさ

自分の先祖が残した遺産を
減らさないように守るのが
美徳とされているからさ〜」

しょうゆや味噌を
貸し借りする
江戸時代の長屋の感覚。


「…クボ先輩も
お坊ちゃまだったけど」

見るからに
お金持ちって雰囲気は
なかったもんなあ。


「プライバシーを侵害される
監視カメラや

何重ものロックより

人間の横の繋がりの方が
防災や犯罪に対する
対応力があるからね〜」


「……」

だけど。


「ほらほら!
この駐車場の監視カメラも
全部ダミーだし〜」


…このヒトは
今、自分達がどんな立場に
置かれているのか

わかっているのだろうか。


そんな話をしちゃったら

“住民に注意しろ”って
バードさんに
入れ知恵しちゃってるのも
同然で。


「……」

私はルームミラー越しに

押し黙っている
バードさんの顔色を
そっと窺った。