暗い車内。
駐車場の暖色系の
正面からのライトが
バードさんの横顔を
浮き上がらせる。
雨の日の地下鉄のような
コンクリートの湿気た匂いが
無言のバードさんを
不気味に演出していて。
“自殺の名所”
“賽の河原”
バードさんは
いったいどんな決意を持って
逃亡先に
こんな場所を選んだのか
結論を導き出すのも
怖かった。
「適当なトコロに
停めちゃっても
いいのかな?」
テルさんが
来客用の駐車スペースに
車を停めると
バードさんが
私の肘を強く掴んで
車から降りるよう
促している。
「……」
逃げるなら
今がチャンスだ。
私のカラダを車外へと
押し出そうとしている
バードさんの腕を
強引に引っ張れば
簡単にバランスを
崩させるコトが
出来るだろう。
だけど。
「トーコちゃん。
早く降りて」
たとえ
バードさんの手から
上手く逃げ果せたとしても
バードさんを
こんな場所にひとり残して
万が一のコトがあったとき
私は後悔しないだろうか。
私が結論を出せずに
車から出るのを渋っていると
「ねえねえねえ。
運転手だった俺は
ここで解放して
貰えるのかな?」
テルさんの
信じられない発言に
私は自分の耳を疑った。