レクイエム#043


思いもかけぬヒトの口から
発せられたその名前。

この街に詳しい
元ワンオーなのだから

クボ先輩のお義兄さんの
自殺のコトを知っていても
おかしくはなかったけれど。


“クボくん”

そのヒトが口にした
その響きが

あまりにも
やさしかったから。


「えっと…、あの…?」

私は動揺を隠せずにいる。


「クボ先輩って
以前のバイト先の先輩で…」


「バイト先って?」

「……」

どこまで答えて
いいんだろうか。


私が答えに詰まっていると

ふたりを乗せた
エレベーターが

最上階に到達した。


「どうぞ」

OPENボタンを押しながら
バードさんが私に先を譲る。


「……」

どうぞ、と言われて
素直に降りる私も
私だけれど。


私が逃げないと
確信しているのか

逃げても構わないと
思っているのか

それともただ単に
油断してしまっているだけ
なのか

私のカラダを解放したままの
バードさんの真意を

私は量りかねていた。