静かな廊下。
私の頬を
冷たい風が刺激する。
マンションの真ん中が
吹き抜けになっていて
枯れ草色の芝生の中庭が
ちいさな間接照明に
照らされていた。
中庭を囲む暗い影。
目を凝らすと
おおきな樹の上に
ハンモックのようなネットが
各階に張られていて。
「……」
“飛び降り自殺”
アタマの中に
嫌なフレーズが蘇ってくる。
「どうしたの?」
バードさんに声を掛けられ
私は自分が
立ち止まっていたコトに
初めて気がついた。
廊下の角部屋の
開いたドアの向こう
バードさんが
こちらを見ている。
私とバードさんの間には
螺旋状の非常階段。
逃げ出すのは簡単だった。
だけど。
「……」
冬の風に吹かれて
中庭の樹が
ザワワと音を立て
その音にまぎれて
ヒュンヒュン
転落防止用のネットの
ちいさな悲鳴に
嫌な予感。