その声に振り返ると
エレベーターの前から
こちらを覗き込んでいる
小柄な女性。
このマンションの
住人だろうか。
田舎のおばあちゃんと
同じくらいの年恰好。
手には
がまぐちタイプの
手提げバッグと
寿司屋の紙袋を持っていて。
外出先からの帰り
なのだろうか。
「アナタ
見掛けない顔ね?」
白髪の小柄なご婦人が
がまぐちバックを胸に抱え
私から
一歩、二歩と後ずさる。
「あ。あのッ。
けっして
怪しい者ではありませんッ」
訝しげにする
ご婦人の視線の先には
シンスケの鼻血による
私の洋服の赤いシミ。
「あのッ。違うんですッ!
これは私の血とか
じゃなくてッ
シンスケってゆ〜友達の」
「返り血…」
「え」
「そうなのね!?」
違いますッ!!!!!
「待ってくださいッ!
私の話をちゃんと
聴いてくださいッ」
ぎゃああああ、と
悲鳴を上げながら
廊下を走るご婦人の後姿を
私は必死で追い掛けた。