レクイエム#044


「警察に通報した方が
いいんじゃないのかしら」

がまぐちバッグを抱えた
白髪のご婦人が
私の顔を覗き込んでくる。


「えッ、いや、あのッ」

この場合

むしろ
警察を呼んで貰った方が
ありがたいような気が
しないでもないですが。


「高校生?、どこの学校?」

誤解をたくさん生みそうな
この状況を

学校に知られるのだけは
勘弁して戴きたい。


「みなさんッ
落ち着いてッ

私の話を聴いてくださいッ」

古いマンションの廊下に
切ない訴えが響き渡った。


だけど哀しいかな。

「クボさん家に
誰か侵入しようとしたん
だって?」

私の希望とは反対に

騒ぎを聞きつけた住人が
またひとり、またひとり、と
増えては

騒ぎがおおきくなってゆく。


「あのッ!
私は、ですねッ!」

「怖いわね〜」

「…あの…お」

相手は
おじいちゃんおばあちゃんの
白髪&毛染め集団ッ。

ここはもう説得ではなく

実力行使で
いくしかないのかッ。


私は後ろ手にされた腕に
グッとチカラを入れてみた。


「あの部屋
幽霊が出る、なんて
ウワサだったけど

やっぱり人間だったのね」


「え?」

幽霊、って…。