レクイエム#046


「こんばんは」

穏やかな口調。

「ちょっと忘れ物を取りに
寄っただけなんですよ」

私の背後で
マッチョなゴマ塩アタマに
返事をしているそのヒトの

特徴ある声…。


「彼女が
どうかしましたか?」

「ははははは。
クボの坊ちゃんの
お連れさんだったとは!」

早く言いなさいよ、って

さっきまで私を
キツく拘束していた
マッチョなゴマ塩アタマが

ヘラヘラしながら
そのヒトに道を譲っている。


「放っておいてゴメン。

部屋番号わからなくて
迷子になってたんだ?」

そう言って
私の腕を掴んだそのヒトは

「バー…」

その名前を口にしようとした
私の唇に

人差し指を添え
コトバを遮ると

「夜中にお騒がせしました」

私の肩を抱くようにして
住民達の間を通り抜け

廊下を先へと進んでいった。


私の知っているクボ先輩とは
背格好も声も全く違う。

なのに

住民達はこのヒトを
“クボの坊ちゃん”だと
思い込んでいて…?


アタマの中が混乱する。


「…バードさん。あの?」

「しッ。まだ黙ってて」

バードさんが
私の耳元に唇を寄せ

ささやいた。