「死んだ父がね
無類の犬好きだったらね」
「……」
「離婚に至る発端も
拾ってきた犬を
飼うか飼わないか、だった
らしいから」
なんて
バードさんは
笑ってますけれど。
バードさんのご両親。
キリエさんの離婚の原因…。
そんな話をまさか
バードさん本人の口から
聴こうとは
想像だにしなかったから
「……」
私はまたしても
この空気に
緊張を
強いられてしまっている。
「眉がこう真ん丸で
鼻先が真っ黒で…」
「……」
「器量はもうひとつだし
意地汚くて
“待て”は出来ないワ。
外に連れ出すと、興奮して
ひとりでどんどん
走り出しちゃうワ、の
バカ犬で…」
バードさんの語る
愛犬との想い出は
キリエさんの飼っている
あの犬を
私に思い起こさせた。
「だけど
父はそんなバカなトコロも
可愛くて仕方ない、って
デレデレでさ」
バードさんは右手の指で
茶目っ気いっぱいに
自分の目じりを
下げて見せる。
「……」
想い出を口にする
そのやさしい瞳が
亡くなった
自分の父親のコトを
大好きだった、と
雄弁に語っていた。