「それにね。
バカだ、マヌケだ、と
言われ続けたその犬も
父の後を追うように
亡くなってね。
ある意味
最後まで忠犬だったんだよ」
バードさんの頬が
想い出話にまた緩む。
「犬が死んだときは
さすがに
どうして僕を残して
父の方を
選んじゃったんだ、って
そりゃあ、ね。
悔しかったけど」
バードさんの横顔に落ちる
マツゲの長い影。
「…バードさんも
そのワンちゃんが
大好きだったんですね」
「気がつくといつも
僕の傍に居てくれてたしね」
バードさんの声の
やわらかな響きを
耳にしながら
私はマグカップのコーヒーを
飲み終えた。
「だからさ。
雰囲気が似ている
トーコちゃんが傍にいると
つい気を許しちゃう、って
いうのかな。
ベラベラと要らないコトまで
こうして
またしゃべっちゃってる」
バードさんはそう言って
私に舌を出して見せ
片腕をおおきく伸ばす。
サイドテーブルの
ペン立ての中から
油性ペンを選び取り
「多分、こうだったと思う」
消えた数字を
私の腕に書き足した。
「…番号ッ
覚えてたんですか!」
「まあ、これくらいは」
うあああああああ。
よかったあああああああ!