「…父親が死んで

母親に引き取られ
上京したモノの

ケンカも出来ないくらい
冷めた親子関係で」


自分の居る場所なんて
この街のどこにもない、と
思っていたから。


「気つくと
ワンオーの活動が
自分の生活の
全てになっていた」


ふせた瞳を縁取る
濃いまつ毛の影が

バードさんの白い頬に落ち

その長い指が

額に掛かっていた
清廉な漆黒の髪を
かき上げるのを

私は息を呑み

ただ黙って見守っている。


「…ああ。ゴメン。
つまんない話しちゃったね」


私の様子に気づいた
バードさんが

気まずそうに
こちらをチラ見した。


「…いえ」

こういうとき

どういうリアクションを
すればいいのだろう。


知りたいコト
訊きたいコトは
いっぱいあったけど

何だか他人の家の事情に
立ち入っているようで

さすがに気が引けた。