レクイエム#056


「そんな短時間しか働けない
消耗品の盗聴器。

見た目だって
ゴミにしか見えないモノを

わざわざリスクを冒してまで
俺が回収するメリットは?」


自分に叩きつけられた
湿布剤を

まるで
汚いモノでも拾うように
長い指でツマみ上げ

「フフン」

額に汗を滲ませながら

セイがゆらりと立ち上がる。


美しいセイの
言い知れぬ迫力に

「ごっくん」

息を呑んだのは



それとも
バードさんだったのか。


壁に肩を預けて立つセイに

「…ふらついてるけどッ
大丈夫?」

出遅れるカタチで
手を伸ばしてきた私を見て

「余計なお世話だ」

セイが余裕ぶっていた。


「短時間しか
盗聴できない、って…」

バードさんが
顔に掛かる長い前髪を
片手で押さえながら

ちいさな声で呟くと


「見ればわかるだろ。

コンセントに
繋げてあるワケでもなく

自家発電も出来ない
単純な代物だ」


あのセイが

フザけるコトもなく
威圧もせずに

至極まともに答えていて

なんだか
拍子抜けさせられる。


「事前に留守宅に侵入して
セッティングするタイプの
盗聴器じゃなく

ソイツは
ターゲットの衣服や持ち物に
貼りつけて使うんだ」

セイの説明に

「じゃあ、もしかしたら
他にも…?」

顔から色味が消えていた
バードさんの両手が

慌ただしく
自分の服を探り始めた。