生前には
一度も部屋を訪ねなかった
母親だった。
その場所に居座って
息子の持ち家は
自分の財産だ、と
部屋の明け渡しを
拒否し続けている
真っ最中であったコトは
誰の目にも明白で。
彼女のセリフに
母親としての本音はナイ、と
わかってはいたけれど。
「それでも」
不幸な転落事故の現場が
“自殺の名所”と呼ばれ
怨念だけを残して
死んでしまったかのように
ウワサされ
勝手な憶測だけが
面白おかしく
尾ひれをつけて
広がっていくこのジレンマ。
理不尽さ。
「みんなは
誤解しているようだったけど
クボくんは
義弟のコトが大好きで
本当に愛おしく
思っていたから…!」
せめて。
ウワサの中だけでも。
「クボくんが
生前望んでいたような
しあわせな
仲のよい兄弟と…」
バードさんのおおきな瞳が
キラキラとうるんでいる。
「……」
「……」
「……」
だけど。
バードさんの
このナミダを見て
かえって冷静になってしまう
自分がいるのも本当で。
「…ふん。
本当に仲がよかった
義兄弟がさ
誰かの悪意によって
仲が悪いと広められ
ってえのなら
わからなくもないけどさ」
バッカじゃないの?、と
毒づくセイの
腕を取り
「ちょっとッ」
窘めるそぶりをしながらも
私はセイと同じ疑問を
持っていた。