母親がひと暴れして
屋敷を立ち去った後

そこにあったのは

部屋に閉じ籠もったまま
出てこない義弟を

必死で慰める義兄の姿。


“お義母さまは悪くない”

“お前や僕の中に流れている
父親の血が腹立たしいだけ。

傷つける相手が、お父さまが
いないから

お義母さまは
代わりに僕達を傷つけて

自分を保とうと
しているんだよ”


「……」

バードさんが再現する
長男のセリフには

自傷に走るような弱さは
微塵も感じない。


むしろ、その逆で。


今までバードさんが
私に語ってきた

あのオドオドした
気弱さとは

どうも結びつかなくて。


思い込みが激しい
バードさん。


記憶の中で少しずつ

何かがすり替わって
しまっているのだろうか。


そんな私の戸惑いに
気づいたのか

それとも単に

生来の天の邪鬼な気質が
発揮されただけなのか


「どんな男前なセリフも
気弱な義兄が言ったんじゃ

なんの説得力もないよな」


セイが鼻で笑っていて。


だけど

「あのね、セイ!」

振り向いた先にあった
セイの横顔は

どこか神妙で

「……」

私は叱責のコトバを

思わず
呑み込んでしまっていた。