「まあ、もっとも
アンタが証言しなくても

ここのマンションの住民が

転落直前に

本妻が一方的に
長男らを罵倒する声を
聴いていたらしくてさ」


薄い壁。

ベランダが開いていたと
いうのだから

おそらくマンション中に
筒抜けであったのだろう。


“あの子が
出来そこないなのは
私のせいじゃないわ!”


“こんな絵を描かせて
あの子をそそのかして!”


“あの子を甘やかせ
ダメにしたのは
お前じゃないの!”


「だから当初、警察も

“事故”だけではなく
“事件”の線と両方で
捜査していたみたいだけど」


“画用紙を
拾い集めようとして”


「本妻の主張を裏付ける
肝心な物証が
その場から消えているんじゃ

本妻も分が悪すぎるわな〜」


“自己保身の為
作り話をしているのでは?”


「正直にあったコトを
話しているハズなのに」


証拠が
消えてしまったばかりに


“ウソつき”

“本当は
殺したんじゃないの?”


「“疑惑のヒト”と
揶揄されて

ハ!、お気の毒ッ!」


ウワサが本妻の立場を
追い詰めていた。