「助けを呼ぶ声に
振り向くと

ベランダの柵から
身を乗り出し
転落しかかっていた長男と

その背中にしがみつく
女子大生の姿が
目に入ってきた」


「……」


「本妻の隙を突き
ショルダーバッグを
奪い返すと

アンタは
ふたりの元に駆け寄り

それを追うようにして
本妻もベランダへ」


「……」


「本妻はさ。

転落しそうになっていた
女子大生を助けようと

自分も“無我夢中で
彼女の着ていた上着を
掴んだ”と

主張しているんだけど?」


セイの突っ込んだ問いにも

「……」

バードさんは
微動だにしない。


「女子大生の着ていた
上着にも

本妻の供述通り

こおんなカンジで
本妻の指紋が
付いていたらしいけど」


両指を握り込み


「アンタがさっき
主張したように

本妻が突き落とした、と
言うのであれば

こう、上着を掴んで
押し出した、って
言うのかねえ?」


セイが
本妻の動きを再現した。