レクイエム#069
セイが来る前
この部屋で
「あのとき
死んでいたのは
本当は
僕だったハズなのにね」
バードさんは
確かにそう語っていた。
自分が本妻さんと
破れた絵を巡り
揉み合っていたとき
本妻さんのその形相に
ただならぬ殺気を
感じていたんだろう。
本妻さんが意地になって
奪おうとしていたのは
あくまで自分に託された
“無事だった絵”
だったから
逃走しながらバードさんは
本妻さんは当然、自分を
追い掛けてきているのだと
思っていたハズで
“捕まったら
マジ殺されるかも”
その恐ろしさに
振り返って
後ろを確認する余裕すら
なかった、というのなら
確かに筋が通っている。
「アンタは、あの日
本妻の、妾腹の息子への
仕打ちの酷さを
初めて目の当たりにして
殺されるかも、と
思い込んじゃったのかも
しれないけれどさ」
私のアタマの中を
読んだかのように
セイが
バードさんの中の
“殺意に対する認識”を
口にした。