停電の混乱時に
床に落ちたのだろうか

カーペットの毛足の中
埋もれるようにして

灰皿がひっくり返っている。


「セイッ!
足で灰を散らさないッ!」


ベランダと部屋の境目に
座り込んでいたセイを
邪魔にして

灰皿の傍に
腰を屈めた私の襟首を

「きゃ」

セイが掴んで
乱暴に引き寄せた。


「死んだ息子恋しさに

足しげく部屋に通う
可愛そうな母親でも
演出したかったの?


それとも
合鍵を持っているであろう
本宅の人間への

“この部屋は今も
利用しています”的な

アピール、なのかな?」


繰り返される
執拗な確認作業。


「この贅沢なタバコの銘柄

その辺のコンビニじゃ
置いてないだろ?」


「……」


「これ、1本
いくらするか知ってる?


中華のファストフードを
移動販売してる程度の売上で

まかなえるような
シロモノじゃないよねえ!」