長く子どもに
恵まれなかった夫婦。


愛人に産ませた子を
跡継ぎとして
迎え入れるコトに
最後まで抵抗し

“私、妊娠したの”

夫にウソをついてしまった
本妻。


「“養子”だろうが
“実子”だろうが

息子が生きてさえいれば
クボ家の人間の実母として

愛人は、おおきな顔をして
いられたんだろうけれど」


息子の死は
誤算だったろうな、と

セイが私を
背中から抱きかかえた。


「…セイ?」


「立場をなくし
追い詰められた愛人が

自身の地位安泰の為
正妻の息子に近づいたのは

理解できるとしてもさ」


「……」


「母親が敵視する
父親の愛人を
受け入れる、なんて

絶対に
まともじゃない、って」


「……」


「俺のトーコには絶対
ふさわしくない、って」


セイが
私の髪に甘えるように
頬を寄せてくる。


「…クボ先輩は
誰に対しても
愛想のいいヒトだから」


「…今更、思い出したくも
思い出させたくも
ないけど、さ」


嫌なセイの前置きに
私の鼓動が速まった。


「お前が拉致されたとき

俺、クボと
一緒だったじゃん?」