レクイエム#073


「落ち着こうッ」


そうだ。


「こういうときこそ
冷静沈着にッ」


いつもセイから
そうされているように

私は自分の両頬を
左右に引っ張り

己に喝を入れる。


「おしッ」


わかってるよ、セイ。


「こ〜ゆ〜ときこそ

慌てず、騒がず
周りをよく見て、だよね?」


ここはマンションだ。

住人だってたくさんいる。


見知らぬ人間の
非常識な時間の訪問に

警戒されて当然だけど

「どこか一軒くらい
手を貸してくれる家が…」

あるコトを信じるのみッ。


エレベーターから一番近い
訪問先をロックオン。


勇んで踵を返そうとして

「あ〜の、さあ!」

私はふざけた声に
呼び止められた。


「テルさん!」