「ちょっと待ったあッッ!」

歩き出そうとした
テルさんの腕を掴んで

強引に引き寄せるッ。


「テルさんッ、さっき
アナタ、犬が動いた、って
言ってましたよねッ!?」


「そうだったっけ?」

「そうですよッッ!!!」


「どっちでもいいじゃない」

「よくありませんッ」


「じゃあ、死んでる、って
コトで」

よろしく、と

階段の方へと
向かおうとした
テルさんのカラダを

ドンッ!

私は思い切り
エレベーターのドアへと
押し出したッ。


「ちょっとッ、おい
勘弁してくれよ〜。

乱暴はやめよう、な?」


命乞いするが如く
後ずさるオトコの姿に

今更、何も
期待する気はナイけれど。


「わかりました。

ワンちゃん救出は
住民の方に
協力して貰いますから

テルさんは
あっちの奥の部屋から

順番に呼び鈴
鳴らしていってください」


オトコの情けない姿は

テンパっていた私のアタマを
冷静にさせる。


「え〜ッッッ?
俺が住民に交渉すんの〜?」


要求を拒むテルさんを
その場に残し

私は最初にロックオンした
訪問先へと歩き出した。


「住民に騒がれて

警察にでも
通報されちゃおうモノなら

困るのは

この中に閉じ込められている
あの“ニセのクボくん”じゃ
ないのかね〜え?」