手の中で
マッチ箱のような
四角い形を感じながら
私はそのまま廊下を走り
「返せよッ!!」
追い掛けてきた
テルさんを振り切って
「ああッ!?」
ネットの上で横たわる
ワンちゃんの傍に
腕時計を投げ捨てる!
「ちょっ…!!!!」
暗闇の中に
飲み込まれていった
腕時計。
「ウソだろお…おい」
上半身を
乗り出すようにして
テルさんが
階下を覗き込んだ。
腕時計を取り戻す為に
テルさんは
この状況を
何とかしなくては
ならなくなったワケで。
「…ワンちゃん救出に
知恵を貸して
くれますよね?」
私の
イチかバチかの大勝負に
「…トーコちゃんてさあ」
テルさんが
笑ってる…?