レクイエム#075


「ちょっッ!」

ちょっと待ってください、と
テルさんの腕に
すがりつこうとした
私の眼前に

「おっと!」

火の点いたマーカーペンが
向けられるッ。


「……」

反射的に
両手をあげる私を見て

「危ないなあ」

テルさんが
満足そうに笑っていた。


ライターで直接
ロープに火をつければ
いいモノを。


わざわざ
油性マーカーなんかに
火をつけたのは

私に邪魔させない為の
威嚇用だったのか。


だけど。


「…そんなコトをして

テルさんの大事なモノが
どこにいったか
わからなくなるかも
しれませんよ!?」


この駆け引きには
ワンちゃんの命運が
かかっている。


「ほらッ、階下には
コンクリートの部分だって
ありますしッ」