レクイエム#076


私を非常階段の手前に
配置して

テルさんが
エレベーターの方へと
歩き出す。


猫背気味の
どこか淋しそうに見える
後ろ姿。


風に吹かれて
ザワザワとざわめく木々

階下に目をやりながら
塀沿いをゆっくりと歩く

テルさんの何気ない所作に

「……」

何故だろう

会ったコトもナイ
容姿すら知らないハズの
クボ先輩のお義兄さんの姿を
重ねてしまう。


バードさんと似た
背格好だったと言う
クボ先輩のお義兄さんと

身長のあるテルさんの姿と
重ねるなんて

おかしな話だ。


何だろう。


このヒトの持つ
どこか投げやりで
刹那的なイメージが

私にそんな印象を
与えているのだろうか。


セイの学校の先輩で

親の工場が
危なくなったときに
セイが助け船を出した、とか

今の仕事を紹介したのが
セイだった、とか

そういう
プロフィール的なコトなら
少しは知ってはいるけれど

知り合ったキッカケどころか

私はこのヒトがセイと
普通の話をしているトコロを
見た覚えすらなくて。


「普段は何を話したり
しているんだろうな」

想像もつかないや。


「…トーコちゃんさあ」

「えッ、あ、ハイッ!?」