テルさんに
不意に名前を呼ばれ
驚いた。
「……」
まさかココロの声が
聴こえていたのでは
あるないなッ。
ドキドキと
心臓を高ぶらせながら
テルさんの方に目をやると
「ちょっと下の方
灯りをかざしてくれるかな」
テルさんがアゴで
ネット上のワンちゃんの方を
指し示している。
「……」
もう、アゴ痛くないのかな。
テルさんに言われるがまま
非常階段の鉄柵の隙間から
腕を伸ばすと
下からの強い風に煽られて
マーカーペンの先の日が
おおきく揺れた。
「…ここ幽霊マンションって
呼ばれてたんだっけ」
なんか見ようによっては
火の玉みたいで
自分でやってて
ちょっとコワイな。
だけど、これで確かに
塀から覗き込んだときよりも
ぼんやりとだけど
辺りが明るくなって
ネットの上に横たわっている
ワンちゃんを取り囲む
周囲の様子が俄然
把握しやすくなってきた。