「……」


セイは私を後ろから
抱え込むようにして

ゲームに夢中になっていた。


…ちっちゃい頃から
いっつもそう。


結果が出なくても

ヘタはヘタなりに
楽しんでいるんだって

結果を出せるヒトには
理解できないんだろうけれど。


「ほら、ここだよ!
ポイントはッ。

よく見ておけよ!」


セイの声が
耳元でうるさく感じる。


「ほら、ここッ!
トーコでも、できるだろ」


セイが私に
コントローラを握らせて

自分の手を重ねてきた。


「……」

キレイな指。

ツメがピカピカ光ってて。


「…セイって
ツメの手入れとか

どうしてるの?」


なんて

ゲームと
全くカンケイのないコトを
私は口走る。


「…何だよ。

せっかくヒトが
教えてやってるのに」


セイが乱暴に
ゲーム機の電源を切って。


「ツメが何だって?」

「……」


肩越しにセイが
私の顔を覗き込んできた。


「だって、セイは
ここんトコロ
ずっと家にいるし」

たまに出かけても
図書館とか
大学の研究室とかなのに。


「ツメの手入れなんか
する時間
勿体なくない?」


「…何だよそれ」


こんなのは
身だしなみ、だろ。

毎日、風呂入ったり
歯を磨くのと
変わらない、って

セイは
サラリと言いのけた。


「トーコは
相変わらず深爪してるのな」


セイは私の指を
いじりながら


「知ってる?

手の指のツメってさ
中指が一番
伸びるのが早いんだよ」


私の中指を
自分の口に含んで

指の中で唯一
僅かに伸びていたツメを
ガジガジ、噛んでいる。


「セイがそんなコトしたら
ますます深爪しなきゃ
ならなくなるじゃないッ」


わたしの訴えにも


「ツメだけじゃなく
トーコのカラダ

み〜んな噛み砕きたい」


なんて。


…変態ッ。


「もおおッ」


私は
セイから自分の指を守る。