チュッちゅ♂020


「トーコ!
いい話があるのよッ!」

さっき家を出たばかりの
ママが

突然、戻ってきたかと
思ったら

息を切らして
私の部屋に飛び込んできたッ。


「ママ。
タドコロさん達と
観劇に
行くんじゃなかったの?」


「そうなんだけどッ。

ママねッ。
今、エレベーターの中で
階下の音楽教室の先生と
遇ってねッ。

ほらッ!
面白いヘアスタイルした…

あ、でもッ
面白いと言ってもねッ」


そのまま
ママの話を15分は
聴いていたような
気がするけどッ。


…要するに。

いい話、とは
音楽教室で1時間だけ
バイトをしないか、とゆ〜
お誘いで。


「私、子ども達に
音楽なんて教えられないよッ」

音痴ではないとは
思うんだけど

ピアノはおろか

楽譜だって
読めるかどうかッ。


「2時間で3千円ってゆ〜
オイシイお話だったから

ママ。
今からトーコを
行かせます、って
手打ちしてきちゃった♪」


…もしもしもしッ。

何か凄く嫌な予感がするッ。


「じゃあ、ママは
タドコロさん達が
待ってるから」って

一方的に喋り捲って
さっさと
お出掛けしてしまった。


「セイッ
ちょっと起きてよ!」

「ん〜…」

「大変なんだからッ」

「ん〜…?」


「私ねッ。

階下の音楽教室に
今からバイトに行けと
ママに言われたんだけどッ」

今夜は研究室で
夜間の実験があるとかで

仮眠中のセイを
揺り起そうとしたけれど。


「…抱いて欲しいなら
後にしろよ」

私を抱き枕代わりに
しようとしたりしてッ。


全然、私の話なんか
聴いてないッ。


「…もういいッ!」

寝ぼけたセイに
相談しようなんて

私の方が
間違っていましたッ。


私は取りあえず
セイを家に残したまま

事情を訊きに
マンションの階下にある
音楽教室を

訪ねてみるコトにした。