「いや〜。助かるよ」

…事情を訊きに
行っただけなのにッ。


何故か
たくさんの写真と
アルバムが積まれた
作業台に座らされッ。


ガラス越しに
リトミックのレッスンを
受けている
ママさん達と赤ちゃん達を
横目で見ながら

「…ケンちゃんがいない
時間帯でよかった」

さっさと
断わって帰ろうと
思ったんだけどッ。


「ちょっと
僕は今から銀行に
行かなくちゃいけないから」


わからないコトは
その辺の子どもに
訊いて、って

前髪がとぐろを巻いた
変な髪型の先生に

ひとり部屋に
取り残されるッ。

「もしもしもし〜…」


音楽教室の
発表会の写真を

保護者の希望する写真を
それぞれピックアップして

アルバムに挟み込むだけの
単純作業なんだけど。


「見捨てて帰ったら
後でママに怒られるかな…」


パラパラと
出来あがり見本の
アルバムを見ていたら


「あ」

ホッペを真っ赤にして

誰よりもおっきく
口を開けていて

まんなかで
ずーずーしく目立ってる

ケンちゃんの写真を
発見した。


「…オーガンジーの
スケ感のある
軽やかなパフスリーブ」

妖精のような
黒のドレス。

ヘアバンド
鳥の細い羽が
ふたつ、ついていて。


「…相変わらず
個性的だけど

ハロウィンの魔女みたいで
なかなかよく似合ってるな」


「ゴキブリみたいで
カッコイイだろうッ」


「……」

私の肩越しから
写真を覗き込む

見慣れた
そのでっかい瞳ッ。


「…ひさしぶりだね」

「おうッ」


大事なコトを
しているときには
絶対に顔を合わせたくない
相手ですッ。