「初心者用の料理の本
たくさんあるから
貸したげるよ〜!!」
ナンノってば
やけにノリノリで。
部活終わりに
ナンノの家に立ち寄った。
「…凄いね」
ナンノの家の台所の
戸棚を開けると
ぎっしりと料理本が
詰め込まれていて。
「オンナノコだもんッ。
これくらい持ってて当然よッ」
ナンノが棚から
本をテーブルの上に
自慢げに並べてゆく。
「……」
…肉体派の彼氏の為の
愛情弁当!?
手にした本のタイトルと
思わず
ニラメッコしてしまうッ。
深読みしては
いけないと思っても
どうしても
シンスケの姿が
アタマの中にチラついて…。
「トーコ?」
「!!!?」
ふいに
ナンノに声を掛けられ
超、アセるッ。
「気に入ったのあった?」
「あ、ああ、うんッ!」
目の前にあった本を
ナンノに掲げたッ。
「…パンを作りたいの?」
「え?」
私が適当に手にしていたのは
キレイなパンの本で。
「いいけど。
それ、初心者向けじゃないから
難しいかも〜」
ナンノがパラパラと
テーブルの上で
ページを捲ってみせた。
「…美味しそう」
「でしょ?」
写真の美しさに魅かれて
ナンノのママさんが
買ったという。
「こういう本は
どっちかというと
実用というよりは
写真集みたいなカンジかな」
…確かに。
こういうのが
本当に焼けたら
セイだって
少しは私のコト
認めてくれるとは
思うんだけど。
「このクロワッサンなんか
レシピ見ただけで
その工程に
気が遠くなるからッ」
ナンノが笑っているけれど。
「クロワッサン。
セイも大好きなんだよね」
「じゃ、これにする?」
って。
ナンノってば
私の返事も聞かずに
クロワッサンのページを
プリントアウトし始めててッ。
「美味くできたら
私も作ってみたいから
教えてね」
ナンノに見送られ
私は家路についた。