家族が寝静まった夜。

キッチンで

取りあえず
材料を確認してみる。


「…消費期限ヤバいけど
練習だからいいよね」

引き出しの奥から
ドライイーストを
見つけ出した。


「結構、バターとか
使うんだな〜」


時間を掛けて
パン生地を捏ねて捏ねて
捏ねあげてッ。

寿命の尽きた
ドライイーストに
ここは頑張って戴いてッ。


結局、3時間もかけて
焼き上がった
怪しげな物体に

自分の才能のなさを
実感するッ。


「…何やってんの?」

「!!!!!」


いつの間に
自分の部屋から
出てきたのかッ。


「セイッ。アンタッ。

忍び寄って来るなんて
サイテーッッ!!!!」


私は
セイをキッチンから
追い出そうとした。


「うわ、何、これ。

炭でも焼いてたのか?」


セイが長い腕を伸ばして
私の処女作を摘み上げッ

クンクン、と
眉間にシワを寄せながら
ニオイを嗅いでるッ。


「オーブンの調子が
悪かっただけだからッ」


「悪いのは
トーコのアタマだけで
充分なのにな」


くぬうううううう。

かわいくないッ。


テーブルに
ガンガン、と打ちつけて。

「釘とか打てそうだな」

面白がって笑ってるッ。


「返してよッ」

「もう口に入っちゃったよ」

って。


食うのかいッ。


「……」
「……」


紙きれない物体を
セイはあめ玉みたいに
ペロペロふやかしててッ。


何か哀しいッ。